栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第51話 正秋バンド1~

「ねえ、スペシャルオリンピックスって知ってる?」既にかなり親しくなった元総理夫人がある時に唐突に話しかけてきた。「なんですかそのスペシャル、、、」浩の無関心さを装うかのようにあっけらかんとした答えに怒ったのか、「あーあ、浩さんはだめだめだめ、いつものように話にならないわ。亨二さんは知っているわよね」「知的障がい者によるスポーツで、ケネディ大統領の妹さんが、妹の知的障がいの環境から、障がいの人たちでも健常者と同じように社会参加ができる事を考え、まずスポーツからと興し、今日では世界的な組織へと成長しているようです」「ピンポン!さすがに亨二さん・・・。浩さん、少しは社会学を学んだほうがいいかもね」「ううーん、夫人からはいつもやられっぱなし、ところで、そのスペシャルオリンピックスがどうかされましたか?」待ってましたとばかりに言下に、「やっといい質問が返ってきたわ。嬉しいわ。実はね、まだ日本ではこの組織は立ち上がったばかりなのよ」「それで・・・」「そう、そうなのよ、今年、アメリカで世界大会があるのよ。でもアスリートのみなさんの渡航費用等が充分に準備されていないと、この組織の会計責任者の方からお聞きしたのよ」「既に何か考えていらっしゃるのではないんですか」「そうそう、やはり数は力、三人よれば・・・・・。つまり、渡航費用の支援と、このスペシャルオリンピックスを知って頂く目的でチャリテイコンサートをしたいのよ」「コンサート、音楽はよくわからないけど、みんなが集う事は楽しいので、やりましょう!やりましょう!」「東京に視覚障がい者の施設があってね、その中に “正秋バンド“という音楽演奏グループがあって、是非お呼びしてチャリテイコンサートを開催しましょう。ところで、その実行委員長に浩さん、亨ニさん事務局長になって貰いたいの」駆動されたかのように「いつもの御夫人のラジカルな行動パターンですよね。問答無用で卑弥呼の如く御告げする、でもいつも思うんだけど、いつも良き行動へと導くかれていく、このような間髪を入れず、この事が大切なんですよね。あーだこーだ、なんてやる気のない会話など時間の浪費、行動即美学なんですね。良い事はこのような進め方が一番、我々も即一瞬で善悪の判断はつくレベルに人間成長はしています」  僅々数日の間に、浩は会社仲間や親しい友人たちにこの企画の説明会を開催した。心あたたかい会社仲間や友人たちが「やろうやろう、私たちの会社は、お客様が良くなる事に全力投球の日々ですが、特にこのようなより豊かになる社会に向けた行動は果敢に行動して行こう!」見事にまでも一致団結、実行委員会が立ち上がった。それから、みんなで協賛を集めたり、会場や宿泊の予約をいれたり、ポスターやパンフレット、そしてチケット、収支予算書等々、仕事を終えた委員会メンバーは毎晩のように集まった。日曜日も返上した。思いの厚い仲間も日に日に増えて百人を超えるボランティアスタッフとなった。素晴らしい交流の場にもなった。後々、この仲間どうしで仕事を紹介しあったり、恋が生まれたり、この状況を見ながら浩は、「なんて、恬澹(てんたん)なあたたかい仲間たちだろう。このコンサートは成功する」と呟き洩らしていると、俯瞰の立場の夫人の円らな瞳が透かして見ているようで、心がさらに通じあい黙契のような眼差しで二人とも笑み湛えた。

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