こうじょう著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第55話 PTA「会長•ミーツ•ガール」~

脳裏はイタリアの浩、高瀬教授が浮かんだ最中、「オイ浩君!僕が君を帯中PTA会長に推薦しておいたからね」「えええ、PTA?、ちょちょっと待ってください、ワーカホリックの自分、昼間からなんて?」「誰だって仕事人間には時間なんてないよ、ワーク・エンゲージメント、PTAにはデリカシー女性軍団がスクラム組んで、会長は操り人形で、大きな式典の時に原稿通りに話すのみ、年に数回かなあ?」アフォリズムを受けたかのように「上官の命令でしょうか?」「あっはっは!そうだ、命令なんだ」かなりの上機嫌の教授を見て「昨夜、イタリアの美味しいワイン?」とボソボソと漏らす間もなく「受けた!ということなんだね。おめでとう!」一方的な宣戦布告に返す言葉もなく黙認のかたちとなった。なってみると毎月役員会議があるし、行事もあるしで、女性陣に囲まれた状況には面食らう事ばかりであった。そのような中にも次第に慣れて来た頃、体育館での集会の時に、会長としてのいつものスピーチ、壇上から見て、左手の奥の方に美しい夫人、どこかで見たような人がいた。あっ!高校三年生の時の文化祭でお寺での修行や生活の様子を大きく報道された浩の展示を見て、甚く感動された国語の先生、その先生の長女で、キャンパス三大美女の一人とも言われた同級生の美香さん?この時から、壇上ではフリーズ状態と化し、閉式後気がついてみたら目の前に笑顔の彼女がいた。最初は何か蕪雑な浩であったが、次第に笑みが溢れ出してきた。束の間の出会いも「会長さん、会議が始まりますよ!」とジェラシーのように遠くから聞こえる声は、後ろ髪を引かれる思いであった。以来壇上の時には見渡し、目が合うたびに心の中でウインクをした。

 PTAの活動も二年目のある日の役員会議は大いに紛争の剣幕となった。学校の周年事業として大切な記念誌をつくることの議論、今までにはない白熱、企画担当からは「記念誌をつくりたい」財務担当からは「資金がないのでつくりたくない」女性の方の話は長かったり脇道に逸れていたり、生半可に答えを出すべきでは無いと辛抱強く聞き入った。浩には、凡ゆる角度の意見は重要と考え、特に女性の方のより生活感溢れる考えを最も大切にしてきた。既に三十分も過ぎ、暗澹たる雲行きにみんなも苛立ち鬱屈疎まし始めた頃、会長として鳥瞰の浩は満を持したかのように徐に発言した。

役員一同一瞬にして静まり返り、固唾を飲んだ。「それでは、会長としての今回の方向を決めさせて頂きます。結論は、皆さんが答えを出してくれました」みんなは「ええっー」驚き顔、太陽を見る向日葵のように一斉に浩の方に顔を向けた。「財務担当の方々の意見のようにお金がない状況ですので、この考えで」一瞬皆の顔が喜びの人、色を作したり強張ったりの人「企画担当の方々の尽力を考え、記念誌をつくりましょう」またもや顔が真っ二つに。「記念誌はみなさんが寄せた記事や写真で纏めて一冊にして、この作品をPTA室に展示、みなさんに見て頂きましょう!そしてもしバザーその他で資金に余裕が出たら冊子にして皆さんにお配りしましょう。如何でしょう?」皆は印刷された立派な記念誌を想定、全く異なった座標軸の発想に、全員が甚く感動、醸成されたかのように見る見るうちに満面の笑み、天蓋の中にいるような浩に「そうしましょう!そうしましょう!」以来、プロットある浩の元に、今までのお互いの多情多恨は見事に消失、何事もリテラシーを持って全てが可能思考の人間力の高い活き活きとしたPTA役員会へと色褪せない煌びやかさへと進化した。インフルエンサーとしての会長職二年の約束の最後の卒業式、みんなと和気藹々語らいながら別れの中、美香さんともこれが最後と思い語らった。しかし、縁とは不思議なもの、それから十数年後に、泰勝寺での花見の宴で再会、その時はお兄さんを車椅子で押しながら参加されていた。もうこれが最後と思った浩であったが、それからまた十数年後互いの古希の年に再会することとなるのである。ボーイ・ミーツ・ガールのドラマのように縁とは不思議なものである。

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