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第1話 瞬く間に家の中に侵入する豪雨

 瞬く間に家の中に侵入する豪雨、「危ない!」唸るような母の大きな声とともに、両手で千切れんばかりの強引な腕力で、三つ上の姉美保子と浩の手を引っ張り、上の禅寺に駆けあがった未明のあの日、その時が、浩の生まれて初めての記憶の始まり、歴史の始まりであった。 

 浩と一番上の姉真喜子とは、二十も離れていた。真喜子は家計を保つために、高校を主席でありながら進学を断念し就職、東京の外国関係の秘書として勤務、兄慎一郎もまた同じように高校を中退して地元の飴工場に勤めていた。二番目の姉恵美子は、戦前外地で生まれ、戦争の混乱から家族ともども何とか帰郷できたものの、栄養失調となり、戦後間もなく六歳という短い生涯で亡くなった。両親と小学校に入学したばかりの三番目の姉美保子と三歳の浩の四人家族、戦争での戦地での被害で父は目を患い、このことが仕事に影響して、なかなかまともな仕事にはつけず、母もまた仕事は探すものの当時の社会状況からは、道端に立って、労働仕事への車に乗せられてその日の賃金を貰う労働の仕事や子守奉公が時々ある程度の貧しい時代であった。 

 家の中は裸電球ひとつで、あとは何もない六畳一間の家、戦後まもないころの日本の多くの家庭の様相でもあった。「かたづけなさい」と言うような、今の親が子にいうような光景は全くなく、何もない家庭の姿は、暗い曇天の雰囲気が漂うものの、ある種の凛としたものがあり、両親と姉との四人が必死に一緒に育み紡ぎあうあたたかい温もりを幼いながらにも浩は感じていた。

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