栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第43話 老人施設の買取・再会~

新しい施設も順調に運び、行政や市民からの信頼も高まって来た頃、ある県議から「特別養護老人ホームが立ち上がる寸前に、資金難で困っている、引き受けてくれないか?」との相談が飛び込んできた。病院そして老人保健施設は、医療法人での経営であるが、社会福祉法人は未経験であり、資金力のある個人や組織からの寄付ではじまる法人の性格から、医療法人としての軌道は乗ってはいるというものの、まだまだ社会福祉法人を担うまでの資金力はなかった。しかし、先方の強い懇請があり、交渉の窓口として、当方としては浩が、先方からは、切れの良い若者を出すからとのことであった。そして約束の土曜日の朝いちばんに訪れたのは、何と何と、以前行っていた生活情報懇談会のメンバー上條君であった。社会の人に色々な情報を提供しようとの考えで、同級生の弁護士宇都君、パイロットから当病院勤務に転身してくれた濱高君と立上げた会で、お互いに多様を極め、数年続いた懇談会も一先ず終了、音信不通となっていた一人が上條君で、再会の喜びは一入であった。その後お互いにどうしたこうした、あまりにも二人の多彩な活動に、気がついてみたらお昼近くになっていた。この再会が、浩の立ち上げた事務所の未来を大きく左右するとは夢にも思わなかった。何故ならば、事務所としての所謂関与先の浩の担当は、この病院であると言っても過言ではなく、事務所で働くスタッフもこの事を良く理解していた。病院での仕事は、困難の中にも何よりも楽しくやりがいがあって、浩が留守の事務所に居るスタッフも自分なりに楽しく運営していた。こういったお互いのみじかな話で和気藹々、ところが、本題の経営譲渡での金額ではかなりの価格差があった。先方は勿論、これもまだ支払っていない、あれも支払っていないと、支払う予定の明細が止め処もなく出てくる。先方の代表代行としての上條君も困ったような顔をしながらも一応全ての資料が出された。約五千万もお互いの金額に差があった。浩は、しっかりと精査して、これは、先方の代表が見るべきであるとの数字を出し、上條君も納得してその日は帰っていった。すると月曜日の朝、先方の代表から電話は荒々しい声で「おまえ、ふざけるな!俺を誰だと思っている。これからおまえの病院にバキュウムカーで糞尿をばら撒いてやるからな!見ておれ」ガッチャンと強い音で電話が切れた。浩は、「これはまずい!」直ぐさに上條君に急いで電話を入れた。「わかった!急ぐ」上條君も慌てて電話を切り、その代表の自宅に飛び込んだ。「代表、何を狂われたのか!もともとそのままでは、全て借金を抱え、これからの老後をどうするんですか?あれだけのお金を準備してくださるだけでも感謝しなければいけませんよ」荒れ狂う代表を取鎮めるのに一時間ぐらいかかったようで、最後には「すまん、すまん、俺が悪かった。でもなあ、夢のホームは消え、そして借金も、、、」その場で号泣、畳に伏してしまった。浩は、この話を聞き、上條君の交渉力調整力の高さにぞっこんとなり、引継全てが終わった頃に慰労会として夜の食事を、番頭格の松竹君と三人で共にした。「上條君、お願いがあるんだけど、事務所を立ち上げたものの、自分はこの医療機関に全力投球の今、残って頑張っているスタッフにも申し訳なくて、良かったら是非事務所に入って、事務所を経営してくれないかなあ」上條君も最初は戸惑ったものの、浩の厚い思いと、まだ出来たばかりの事務所を未来輝くものしてみることは、社会的にも大切なことではないか、と考え「わかった、入ろう!先ずは県内で最も素晴らしい事務所にしよう」未来を見つめる三人の青年のあつい夜の出来事であった。

関連記事