栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第15話 中学時代・勢いにのる1~

「君が代」「仰げば尊し」「蛍の光」
 当時としては定番の三つの歌のもとに、卒業式が執り行われた。浩にとっては淋しい別れの式となった。みんなはそのまま、他の二つの小学校とともに同じ藤園中学校に進むのである。家を転々としていた校区外の浩は、今住む黒髪の桜山中学校へと進むことになった。せめてもの救いは、上村も一緒に転校ということで、急に仲良しになったことだ。この中学校は、当時は市内でもガラの悪いという不名誉な評判の学校であった。
 入学式を終え、教室に入った。学校側の配慮からか上村と一緒のクラスでほっとした。そのほっとしたのも束の間、原口という男が、ツカツカとやって来て、
「おいお前たち、街中のぼっちゃん学校からきたんだよな。俺たちは山の中の山猿だ。山猿には山猿の掟というものがある。どっちか前にでろ!」
 険しい雰囲気に、危ないなぁと感じながらも、浩は恐る恐る前に出た。いきなりガーンと思い切り殴られ吹っ飛んでしまった。上村が慌てて浩に駆け寄り、血の吹き出る唇に薄汚いハンカチを懸命に充てた。みるみるハンカチは赤く染まっていった。クラスのみんなもゲラゲラと笑うだけで誰も何も動こうとはしなかった。この光景は当たり前の出来事のようであった。
「これが転校生への歓迎式だ」
と原口は大声で叫んだ。街中の学校とは全く雰囲気が違った。スマートとがっちり、上品と下品、全く対照的であった。このような嫌なスタートではあったものの、浩にとって最も良いチャンスが訪れてきた。成績が急上昇したのである。というのも学校全体のレベルが今までよりかなり低いので、小学時代の平均三であった成績が急に四になった。気をよくした浩は、今まで関心の無かった勉強をするようになった。おかげで二学期もさらに良くなり、三学期の期末試験では、なんとクラス一番になったのである。それでも友だちとは、いつも下校には、帰り道の熊本大学の椋木にのぼり実を採ったり、隣接の山によく登り、時には山の中にある果物園の中に侵入して、ぱくりと果物を食べたりした。時折アベックにも遭遇し、まだ少年っぽい浩には、何ら性的感情も湧かずに、面白半分に友達と草藪から眺めた。
 二学年に進級、クラス替えもあり、書道と数学を受け持つ先生が担任となった。クラス委員を選ぶ時、なかなか決まらなかった。団栗の背比べの様相でもあった。業を煮やしたかのように先生が大声で
「今回は先生が決める。いいか。」
 皆は、いいも悪いもなく黙っていた。どうでもいいやの雰囲気でもあった。
「それでは、今回は浩にする。いいな。理由はこの中での一年の最後の成績一番が浩なんだ」
 みんなは驚いたように浩の方を振り向いた。それもそのはず、一年の時から一緒の生徒は数人で、殆どのクラスメイトは小学校の違う浩のことは知らなかった。浩は「やばい」と思いながらも、先生の勢いに飲み込まれ、クラスみんなも飲み込まれていた。
 浩は「なるようになれ」と思った。

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