光輝くランドセル! そのランドセルの贈り主は、なんと長女真喜子からのプレゼントであった。「浩ちゃん、お姉ちゃんはね、今お陰さまで、英語が喋れるので、今の会社に通訳の仕事がよく舞い込んで来て、高いボーナスを頂いたのよ。」 二十も年上の姉から生まれて初めてのプレゼントが、こんなに高価なランドセル。まだ小学生の浩ではあったが、おそらくボーナス全部をはたいたのでは・・・と心配が過りつつも「姉ちゃん、ありがとう。必ずこの恩は返すからね。」 姉はニコニコ顔、母も家計が苦しいものの、浩の張ち切れんばかりの喜ぶ姿に、「よかった、よかったね、浩!」 その夜は、珍しく卵を使ったオムライスだった。久々に家族六人全員が揃った。お酒好きでお酒が強い父、姉真喜子も強く、母と兄は少々、まるで何かのお祝いのような夕食になった。目の不自由な父も、戦場を思い出したように「貴様と俺とは、同期の桜、・・・」 と機嫌よく歌いだした。みんなも父を後押しするかのように手拍子が始まった。 歌い終わるころ、急に父が泣き出した。浩は見苦しいなあと思いながらも家族だけなので、まあいいやと黙ってぼんやりと見ていた。「赤坂君、あの世で元気かい、俺はなあ、目は不自由だけど元気だ、君の分まで生きるからなあ」 あの戦場で同じ釜の飯を食ったあの男のことを思い出したようであった。爆風により父は目を患ったものの、彼はまさに隣で亡くなったのである。その強烈なその場の現象は、生涯忘れることができず、一年に一回は、彼の故郷島根まで、母と一緒に必ず線香をあげに行っていた。母はよく父をケアしていた。 翌日、ランドセルのプレゼントをしてくれた姉真喜子の事を母に詳しく聞いてみた。「お姉ちゃんはね、凄くできる子でね、小学中学トップで高校時代も生徒会長、県の体操の大会では優勝だったのよ。有名な大学に行けたんだけどね、家庭のためにと言って、東京の海外との取引をする会社に就職したのよ。そこで英語も覚えたのよ。ずっと仕送りしてくれたのよ。我が子ながら頭がさがるのよ。父の容態の事を考えてこの前帰って来て、地元の会社に勤務してくれたのよ。それから慎一郎お兄さんはね、高校も二年途中で辞めて、飴工場に勤めてくれるようになったのよ。そんなに給料は高くないけどね。でもこうやって一家が生きていけるのは真喜子お姉さんと慎一郎お兄さんのお陰なのよ。このことは生涯忘れないでいてちょうだいね」 浩には深くは理解できなかったものの、すぐ上の姉美保子は「おかあちゃん、うん、うん、しっかりと覚えておくね」 それにつられて浩も「うんうん」とうなずいた。 家族はまさにお結びのように固く結ばれ、いつもあたたかい灯がともっていた。
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