栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第46話 相続事件1~

ここは天草、天草四郎がいたという風光明媚なこの地に行く事は、浩は何故か心が安らいだ。天草の牛深という、熊本市内からは三時間以上もかかる遠い町に、長田アイスクリームと言って、日本でも名高い製造会社があった。代表の長田は、自身のアイスクリーム製造製品の中でも、アイス菓子「ガリっとチュー」(あらかじめ味付けをして甘くした蜜氷を作り、かき氷のように砕いて袋詰めしたアイス菓子)が全国的にもヒット商品となっていた。浩は同年齢もあってか、とっても馬が合った。彼が研究熱心で、常に相手の話をよく聞き、自社製品を高めようとする努力、そして相手のことにも何か出来ないかと、所謂自利利他の精神を持つ男であったからだ。長田は、自社の成長のみならず地域をより良くしたい思いが強かった。そのことからもよく浩をこの町での講演会を開催して、浩を講師としてよく招いた。浩は講演で、「天草は有明海、不知火海、東シナ海と、三つの海に囲まれ、天草諸島は百二十の島々、東京都の半分ぐらいの広さ、穏やかな内湾から荒波の外海まで豊かな広い海、亜寒帯~亜熱帯まで多くの魚、世界で造礁サンゴは約八百種類、天草のサンゴは約百種類と豊かな海。そこで、この地域活性化の一つに、SUSHI 学校を設立する事を提案します。漁師の収穫法から、寿司店や料理屋での料理法、このように実践を学ぶ所謂実学校を設立して日本そして世界から生徒を!」この話を聞くや否や、長田は直ぐさに学校建設へと動き始めた。その行動は速かった。このような中、講演会で静かに浩の話を聞く老婦人が、終わると徐に立ち上がりながら、近づいて来た。「あの、実は一昨日主人の四十九日を終えました。相続問題で悩んでいます。何とか良い方向に解決して頂きませんでしょうか?」亡くなった御主人は、この町でも最も著名人、財産もどれだけあるかわからないほどとの評判であった。二週間後、専門の藤光君と一緒に、熊本市内の中心部の交通センターホテルの和室に家族全員集まって頂いた。部屋に入るや否や、老婦人、男の子供さん、とは言っても働き盛りの二人の男性と一人の女性、さらに相続を難しくするかのように、一人の女性と一人の男性、合計六人が正座して待ち受けていた。老婦人が静かに「右の三人が私が産んだ子たちです。そして左のニ人が別の方の子たちです」浩は瞬間「やばい」と心に中で叫んだとおり、老婦人の紹介が終わる間も無く、左手の長女と見られる女性から「いつも優しいお父さんとお母さん、ある日突然、このような現実を知り、真っ暗に。それから私たちはね、肩身の狭い思いでずっと生きて来たのよ。わかりますか」まるで、老婦人や老婦人の子どもたちが悪い事をしたかのような言い回し。暫く、この語気が止まらなかった。延々と三十分以上もの長い時間、我慢に我慢を重ねたかのように遂に老婦人の長男が「俺たちも好きでこんな状態を望んだんじゃあない。悪いのは、、、」と爆発した。このままでは良くないと浩は判断、「ここは、亡くなられた仏様と奥様で築かれてきた大切な財産をみなさんにお渡しする事の場です。先ずは亡くなられたお父様とここにいらっしゃるお母様に感謝を申し上げましょう」この一言が空気を一変させた。

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