栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第20話 寺院生活・苦しい時代4~

お寺での生活にも慣れてはきたものの、睡魔は常時のこととなっていた。学校に行くのが一番辛い出来事になってしまった。早く起きることや、遅くまでのお寺の関係のことは、辛いと思わず、むしろ楽しくなっていた。寺内は老若男女の村であり、お互いに助け合って生きているようにも思えた。師匠からも先輩の僧侶からもこよなく可愛がられた。特に檀家信徒の方たちとの触れ合いは最高に楽しかった。川尻や薄場方面、向山本荘方面も担当した。 不思議なことも多く出会うようになった。本堂の宿直担当の時に、さあ休もうと消灯すると間もなく、人の気配と数珠の音がしたので、灯を点けなければと、点けるとそこには誰もいない、おかしいなあと思いながらも、消灯して暫くすると同じ様子であった。繰り返しているうちに、いつの間にか寝てしまい朝の起床の時間、朝起きてみて、昨日のことは夢だったのかなあ、と思いながら学校に行き夕方一度お寺に帰ると、他の僧侶の担当の檀家の方のおばあちゃんがその時間に亡くなっていたとのことで、信仰熱心なおばあちゃんで、よくお寺参詣もされていたと聞き、「あー、お参りにこられたんだなあ」と、夢ではなかったことがわかってほっとした。 ある時浩は、ある家で読経をしていると、どうも左側に仏像が浮かんできたので、「この家に仏像がありませんか」と聞くと、「いえ、そんなことありませんよ」と。「必ずあるはずです」と少し息を荒げて言うと、お参りに集まっていた人たちが騒めきはじめる中、その家の人が、浩が指さす押し入れを開けてみると布団があり、仏像などなく、「お講師様ありませんが」との声を遮るかのように、さらに「必ず!」あきれ果てたその家の方も仕方なくその押し入れの奥のベニヤを剥がしてみたらビックリ、なんと仏像が出てきたではないか。このような所謂霊媒師のように、浩はよく当てるようになり、一人当たりのお布施も急増していき、毎月相当に頂くようになっていった。 ただこのお寺では、そのような霊媒的なことは禁止されていたので、次第にそのような行動を控えるようにした。ただどうしても霊と話したい思いが募り、本堂の裏の納骨堂へ夜に忍び入り、朝まで居ることを一週間続けた。いつもの睡魔から、数分も経たない内に寝入り、朝になってしまった。霊に会うどころか風邪をひいてしまった。「祟りではないか」と思ったものの、ひんやりとした納骨の部屋で一晩中いるということは、風邪をひくのは当然であったようだ。 いろいろ試すのが好きな浩への魅力は、檀家信徒にも受けが良く、所謂フアンクラブのようにもなっていた。 お寺の生活やお寺のご奉公(仕事)は、益々楽しくなっていった。 そのこととは逆に学校の成績は奈落の底に落ちるかのように下がっていった。 このままでは学校が続かない。夜学に移ろうかと、悩みが深まっていった。 担任の先生に相談してみると、意外な答えが返ってきた。「君は仏道修行の身、良い大学進学等考えずに、今やれるだけで十分なんだよ。それぞれの道がある。その道を君は早く見つけているので、それでいいんだよ」

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