相続

相続が発生した場合の諸手続き

1 相続関係の手続き等のスケジュール

相続が発生してからの一般的なスケジュールは以下の通り。

【7日以内】
死亡診断書・死亡届出書の市区町村への提出
通夜・葬儀(告別式)
葬儀費用の支払

【3か月以内】
社会保険・労災保険・国民健康保険・国民年金等の届出
市町村や金融機関、公共料金の手続き
個人事業者の死亡届・消費税の各種届出・その他税制上の各種届出
死因贈与契約書の有無の確認
遺言書の有無の確認
四十九日法要
相続財産と債務の調査・確定
相続人の確定
相続放棄または限定承認

【4か月以内】
所得税・消費税の準確定申告

【10か月以内】
相続財産の分割
名義変更
相続税の申告
延納申請・物納申請

2 相続財産の分割

相続人が1人であればその相続人がすべての財産を相続しますが、複数人の相続人がいる場合は、相続人と相続財産を確定させ、それをどのように分割するかを決定します。以下の4通りの方法があります。

1.遺言書に従って分割する

法的に有効な遺言書が存在する場合、遺言書が優先されます。遺言書の存在を知らずに遺産分割協議が整った後で遺言書が見つかったような場合は、分割のやり直しになってしまいますので、必ず最初に有無を確認しましょう
自筆証書遺言は必要であれば家庭裁判所で検認の手続きを行った後、遺言書に従って分割します。
ただし、法定相続人・受遺者・遺言執行者全員の承認のもと遺産分割協議により分割する場合や、遺留分侵害額請求が行われた場合など、遺言書が作成されていても遺言通りに分割されない場合はあります。

2.遺産分割協議を行い分割する

遺言書がない場合や、遺言書があっても、法定相続人・受遺者・遺言執行者全員の承認のもと遺産分割協議により分割する場合は、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければ法的な効力が認められません。しかし、遺産分割協議に参加できるのは意思能力のある成人に限定されるため、相続人に未成年者がいる場合は特別代理人を、意思能力のない認知症の人がいる場合は成年後見人を選出する必要があります。

3.法定相続分に従って分割する

遺言書がなく、遺産分割協議をしない/できない場合に、法定相続分に従って分割する方法があります。

4.遺産分割調停・審判により分割する

1~3までの方法で遺産の分割が確定しない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。相続人の全員で話し合い調停が整えば良いですが、整わない場合は審判に移行します。審判は裁判所が決定を下します。決定に不服がある場合は2週間以内に即時抗告を行い、訴訟に移行します。
調停・審判・訴訟の手続きは解決までに非常に長い時間がかかることが多々あります。親族間の争いを回避するには生前の対策が重要です!

遺産分割協議が整ったら、遺産分割協議書を作成しましょう。名義変更にも必要になります。

*相続放棄または限定承認

相続が開始すると、相続人は被相続人の財産に関する一切の権利と義務を承継します
つまり、相続人は預貯金や不動産などの財産を取得する権利と、借入金などの債務を引き継ぐ義務を同時に有していることになります。
このとき債務の金額が財産の金額を超えている場合には、相続人に不利益が生じる可能性があるため、被相続人の財産と債務を一切相続しない相続放棄や、預貯金などプラスの財産の金額を限度として債務を相続する限定承認を検討した方が良いでしょう。

相続の放棄または限定承認を行うためには、相続が発生した場合、相続の開始があったことを知った日(原則として被相続人の死亡の日)の翌日から3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。そのためには判断材料となる相続財産の全貌が分からなければなりません。

3 相続税の申告

相続人が配偶者と子2人の計3人で、以下の財産を以下のように相続する例で相続税の計算方法を見ていきましょう。
※金額は適正な評価額であり、下記以外に考慮に入れるべき事項は存在しないものとします。

1.相続税が課税される財産の金額を計算する

相続財産を洗い出して評価し、各人の相続税の課税対象となる金額(課税価格)を計算します。
今回の相続では以下の財産が存在します。

【配偶者】
自宅・土地 計3,000万円
車 200万円
現金・預金 3,000万円
配偶者が受取人の死亡保険金 2,000万円
配偶者が亡くなる2年前に暦年贈与された現金・預金 100万円(贈与税なし)
負担した葬儀費用その他 200万円
【子A(相続発生時点で21歳)】
現金・預金 1,000万円
【子B(相続発生時点で15歳)】
現金・預金 1,000万円

配偶者の課税価格は、自宅・土地、車、現金・預金の6,200万円に、
生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数3人=1,500万円)を超えた部分の生命保険金500万円と
2年前に暦年贈与された現金・預金100万円を加算し、
負担した葬儀費用その他200万円を差し引いた6,600万円です。
子Aと子Bの課税価格はそれぞれそのまま1,000万円です。
よって、課税価格の総額は8,600万円となります。

2.相続税の総額を計算する

① 各人の課税価格を合計した金額から、基礎控除を差し引いて、課税される遺産の総額を計算します。

課税価格の合計額8,600万円から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数3人)を差し引いた3,800万円が課税される遺産の総額となります。

② 課税遺産の総額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして各人の遺産の取得金額(法定相続分に応ずる取得金額)を計算し、 相続税の速算表を参照して算出した各人の税額を合計して、相続税の総額を算出します。

配偶者は法定相続分が1/2なので、課税遺産の総額3,800万円×法定相続分1/2=1,900万円、
速算表を参照すると相続税率15%(控除額は50万円)となり、配偶者から計算される相続税は235万円です。
子は法定相続分が1/4なので、課税遺産の総額3,800万円×法定相続分1/4=950万円、
速算表を参照すると相続税率10%(控除額は0円)となり、子から計算される相続税は95万円です。
子Aと子Bは同額のため、相続税の総額は235万円+95万円+95万円=425万円となります。

国税庁:相続税の税率(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm

3.相続人各人の相続税の負担額を計算する

相続税の総額を、実際に取得した遺産の課税価格の割合によって各人の相続税額を計算し、さらに各種の税額控除額を差し引いた残りの額が各人の納付額になります。

【配偶者】
被相続人の配偶者が実際に取得した正味の遺産額が
(1)1億6千万円 (2)法定相続分相当額
のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税はかからないという配偶者の税額軽減があります。
よって、配偶者の相続税納付額は0円です。

※配偶者が遺産を相続する場合は大きな税額軽減措置がありますが、あまり間を置かず2回目の相続(二次相続)が発生すると、二次相続で思わぬ相続税の負担が生じるケースもあります。配偶者が高齢などの理由で二次相続がすぐに発生する可能性が考えられる場合は、後の事も考えて分割を検討することをお勧めします。

【子A】
遺産の課税価格総額8,600万円のうち、子Aが実際に取得した遺産は1,000万円なので、
相続税の総額425万円×1,000万円/8,600万円=494,100円(百円未満切捨て)が子Aの納付すべき相続税額となります。

【子B】
子Aと同じ金額ですが、子Bは相続発生時点で未成年(ここでは18歳を成人として計算します)ですので、成人になるまでの年数1年につき10万円で計算した未成年者控除が適用できます。
よって494,100円から30万円を控除した194,100円が子Bの納付すべき相続税額となります。

*10ヶ月以内に遺産の分割が調わない場合

未分割の場合の申告書を期限内に提出し、一度納税します。その後分割が決まってから修正申告または更正の請求を行います。デメリットが発生する場合もあるので、注意しましょう。

申告・納税
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかったときは、民法に規定する相続分または包括遺贈の割合により取得したものとして、相続財産の価額及び債務の金額を計算し、相続税の申告をすることになります。

特例の不適用
申告時に分割されていない財産については、いくつかの相続税の特例(優遇措置)が受けられません。主なものは以下の3つです。
 ①配偶者の税額軽減
 ②小規模宅地等の特例
 ③農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例

①②については、当初の申告書の提出時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することより、申告期限後3年以内に分割された場合は特例を適用することができます。また、3年以内に分割ができなかったときでも一定の手続きを行うことで特例が適用できる場合があります。

分割後の手続き
当初の申告後、未分割の財産が分割されたことにより相続税額が増加した場合は修正申告を、減少した場合は更正の請求を、また新たに申告義務が発生した場合は期限後申告を行うことになります。

相続は早めの準備と相談が重要です!

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