栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第50話 ハート&グリーン3~

「私は、魅力ある中都市、市民が活き活きとした市にします。その為には、実りある豊かな経済が向上する事が大切です。その豊かさとは、健康であるという事、魅力を感じ多くの来訪者がある事、そのひとつの施作にお城の復元、、、」出陣式が始まった。他の候補に負けないくらいの多くの人たち、その顔その顔には、候補者への期待を込めながらもあたたかい思いやりのある表情、その場はまさに春咲く花世界のようであった。浩は、選挙カーに乗ったり、スニーカーの夫人と一緒に一日中支援者への訪問、何軒廻ったか判らないほど、終わった後は足は棒のようになっていた。「みんなもきついんだろうなあ、でも一番きついのは候補者であり、夫人であるんだろう」このように思うと、自分がきつい言葉を吐くなんてとんでも無い気持ちとなり、疲れも吹き飛ばしていくように自身を奮い立たせる毎日であった。そして長い選挙の戦いも遂に終った。浩は、勝利の女神を信じながら最後の集合に行こうとした矢先に、父が亡くなった。ここ一〜ニ年姉の家で介護を受けていた。八十七歳、平均寿命七十六歳(当時)であるので、十年以上の長生きということもあり、所謂天寿全うであった。苦しみもなく波乱万丈の生涯を終えた父であった。「ああ、この選挙は当選しないのだなあ」ふとそのように頭が過った。翌日夜の開票で結果は三位、相当の検討とメデア各局は一斉に報道した。市長候補と言われながらもそのことを断念し、選対本部長に自ら名乗りをあげ、獅子奮迅の動きであった田嶋選対本部長が号泣、みなも、涙でいっぱいであったそうだ。お通夜の関係から、浩には、そのような報告を電話で受けた。通夜を終えるや否や急いで選対本部に行くと、多くの人たちが残っていた。普通は、負けた事務所は、すぐに閑古鳥が鳴くような静けさになるようであるが、全く違っていた。報道関係者も多く残っていた。珍しい光景である。立候補した会長と夫人は、当選者のところに行って祝したとの報告が入ってきた。この事は選挙の歴史上初めての出来事ではとの報道であった。「今回の選挙は勉強になった、ここが良かった、ここが不味かった」等等延々とみなは話し込み、夜鍋談義、朝日が昇るまで続き、翌日の新聞に大きく「選挙が終わってもあかりが灯る不夜城」と、これから新しい地域おこしが始まる期待のその様子が掲載された。普通あり得ない報道でもあった。それだけ記者たちも私たちの陣営に感動したようだ。所謂ボランティア選挙のはじまり!新しい選挙の炎は燃え出したと言う記事であった。そしてその後、会長は、新市長の医療計画の片腕となり、二位の候補には、後の参議院選挙立候補の後援会長に就任するなど、戦い終われば地域の為には一致協力の関係となった。会長の人間力の素晴らしさを改めて深く感じた。浩は、どのような事があっても、憎しみや恨みのない人間社会を創ろうと決意し、この日からは、争いはピタリとしないようにした。平和主義者へと大きく進化していくのであった。浩は次第次第に政治への関心が高まっていった。政治経済社会、この大きな三つの世界が綺麗に回ると一人一人がより豊かに生きていけるとの実感を持つようになった。 ある日曜日、デパートのホールでの絵画展示会があり、招待を受けていたので行ってみると、あまり人がいない中、そこには昨年まで総理夫人であった方がじっとある絵を見つめていた。そして自然と目が合った。「あなたは、市長選挙の時に頑張っていた方よね」「はい、そうです」「あのときの選挙は三人の候補とも素晴らしい方で、どなたが当選しても素晴らしい市へと導いてくれそうに思っていましたよ」浩より七つ上、気さくに話す姿に浩は一遍にフアンとなった。この出会いが、これから深い絆となる事は夢にも思わなかった。

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