栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第37話 病院勤務〜あん摩で3万~

病院事務局長の仕事は、息つく暇がなかった。更に理事長の能力の高さ故に通常の三倍のスピードを要求された。八十床の許可病床(患者の入院が認められたベッド数)、職員八十名でのスタートから、みるみるうちに職員四百名、許可病床数は四百床と、申請申請の連続であった。一つの申請に半年かかる内容は二ヶ月で行うなど、常軌を逸したスピードであった。一ヶ月の違いで三千万円のレセプト請求(医療機関が、診療後支払基金等に請求すること)金額の差がでるので、二ヶ月違えば一億円近い増収、浩はこの病院が持つ全ての最高請求迄の申請許可を、通常の事務局長より大幅に短縮でき、概算計算すると、五十億の違いを算出した。理事長もこのことを理解し、理事長と浩との絆は日に日に強固なものになっていった。浩は理事長の考えていることは自然と読めるようになり、稟議書も必ず三方式を提出して理事長が理論的かつ客観的に判断できるように準備をすることにより、即決済を可能にした。いわゆる、差し戻す書類は一つもなかった。 この頃から浩は、お会いする全ての人の頭の中を読み取ることができるようになる不思議な能力が生まれてきた。 こうして、初年度こそ大赤字の決算だったが、以後順調に好決算となり、金融機関からの絶大な信頼を得ると、地域からは頼れる二十四時間対応の病院として成長を続けて行くことになった。 浩は、事務局のマネジメントを強めるとともに、医療の現場へも足を運んだ。現場からマネジメントを行う現場主義者でもあった。救急車へも何度も同乗し、手術室にも入り、リスクヘッジの提案も行なった。医療専門家には気づかない角度での提案で、医療スタッフもみな頷き、各種現場の委員会にも要請されるようになった。 この病院の特色の一つに医療社会事業部があり、訪問看護介護の現場への訪問回数を重ねた。びっくりすることも多かった。まるで独房のような家を訪問した際には、尊厳ある人へこのような対応ではいけないと思い、夜に再度ケースワーカーと訪問、家族に対応改善の話をするとともに、家族も安心してケア出来るようなマニュアル書を作成して、そのケアが出来るようになるまで何度も訪問した。 ある時浩は、マザー・テレサの報道を見て感銘を受けた。その事が、人生の終焉に近い人の尊厳を守る思いをより強くした。人には必ず生まれてきた存在価値があり、その価値の終わりには、安楽の成仏の姿をと思うようになった。介護技術もさる事ながら、身体を摩ってあげたり、揉んであげたりのマッサージの技術習得のために、専門の先生のところへ通った。 ある時、高齢の婦人から「身体が怠くて怠くてどうしょうもないの」と聞くや否や、どうぞこのソファーにと、それから念入りに摩り揉むこと三十分、婦人がおもむろに起き上がり、「凄いわ!このようなまさに極楽浄土にいるような感覚は初めて!最高だったわ。よくお店に行くけど、このように素晴らしく感じたことはなかったわ。ありがとう」と言って、三万円を封筒に入れ差し出された。浩は慌てて、「いえいえ、心を込めてのことですので…」丁重に頂くことは遠慮した。でも、よっぽど嬉しかったんだろうなあ!きっと、何か悩みも多くあられたんだろうなあ!そのような悩み苦しみを一時的にも解放出来て良かったと思った。 このことをキッカケに、それから心と体のケアを目的とした「健康教室」を毎週開催することにした。浩に加え、ヨガ、タヒチアン・ダンスの先生も参加、楽しい教室へと進んでいった。 

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