1)年末調整のいろは
年末調整とは、その年の所得税額を正しく計算し、それまでに徴収した所得税額との差額を徴収または還付し精算する手続です。年末調整は、原則として年末に在籍している『給与所得者の扶養控除等申告書』を提出している職員全員について行います。
◆給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』と源泉徴収
労働者は『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を1か所の勤務先にしか提出できません。これが提出されているかによって、実は毎月の給与の源泉徴収の計算も異なってきます。
◇源泉徴収の甲・乙
国税庁から発行される『源泉徴収税額表』には甲・乙の2種類の源泉徴収税額が定められています。甲欄は源泉徴収を行わなければならない給与金額が月額88千円からとされています。一方乙欄は、どんなに金額が少なくても最低3.063%の源泉徴収を行わなければならず、甲欄よりも多く源泉徴収されることになっています。
◇日雇賃金の源泉徴収
給与の支払い期間が2か月以内である「労働した日ごとに支払われる給与等(日雇賃金)」は、源泉徴収税額表の日額表「丙欄」を使用します。
◆年末調整の手順
① 職員に以下の3種類の申告書を配布しましょう
◇扶養控除等(異動)申告書は何年の分?
本来『扶養控除等申告書』は、前回の年末調整時(新規入職者の場合は入職時)に提出された当年度分(令和6年分)と次年度分(令和7年分)の2枚を配布します。
当年度分に記載の内容が12月31日時点の扶養状況等と異なる場合は修正をしてもらい、次年度分には次の年の1月1日時点の扶養状況等を記載してもらいましょう。
◇扶養控除等(異動)申告書は提出しなくても良い?
「他者の扶養に入る立場だから」「自分で確定申告をするから」などの理由で『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を提出されない方がいるという話を伺いますが、提出がない場合は甲欄での源泉徴収ができませんのでご注意ください。
◇年末調整を行わない場合はなにも要らない?
年末調整を行わない方にも源泉徴収票の発行は行う必要があります。住所等の変更がないかなどの確認を行ってください。『従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書』というものもあります。
② ①の申告書と、各種証明書等を回収しましょう
支払った保険料等がある場合 ▶保険料控除証明書等
※個人で納付した健康保険料や介護保険料等は多くの市町村で通常の発行時期は1月です。窓口で発行してもらうか、別途納付実績が分かる書類(領収証など)で確認できることが望ましいです。
令和6年中に前職がある場合 ▶前職の源泉徴収票(令和6年分)
住宅ローン控除を適用する場合 ▶給与所得者の (特定増改築等) 住宅借入金等特別控除申告書
▶住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
※適用初年度は確定申告が必要です。その後、税務署から上記申告書がまとめて送付されますので、当年分を提出してもらいましょう。
国外に住む親族を扶養する場合 ▶親族関係を証明する書類
▶留学ビザ等書類
▶生活費等を送金していることを証明する書類
※本人配布用のリーフレットが日本語の他に英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語、フィリピノ語で用意されていますので、該当する職員本人にもよく理解してもらい、提出してもらいましょう。
③ 給与・賞与等の金額、控除額、所得税額を計算しましょう
計算が完了したら『源泉徴収簿』『源泉徴収票』を作成します
④ 職員に『源泉徴収票』の交付及び所得税の精算(還付または追徴)を行って年末調整完了です
※定額減税の計算など、書式の一部変更が予定されています。各種書類のダウンロード・くわしいパンフレットはこちら↓↓
国税庁「年末調整がよく分かるページ(令和6年分)」
※源泉徴収義務者向けのリーフレット・書類等:国税庁「源泉徴収義務者の方」参照
2)定額減税と年末調整
◆年末調整の時の定額減税の再計算
6月以降の給与・賞与から適用している定額減税の金額は令和6年6月1日時点の扶養状況で計算していましたが、令和6年分の年末調整を行う時点の扶養状況で再度計算し、確定します。よって、6月1日時点よりも扶養親族が増加していれば控除額が大きくなりますが、減少していれば控除額が少なくなり、追徴額が発生する可能性があります。
※合計所得金額が1,805万円を超える見込みの方は、給与では定額減税を控除しなければなりませんでしたが、年末調整においては控除ができませんので、追徴額が発生する可能性があります。
計算方法は以下の通り。
[1]例年通りの方法で年調所得税額(住宅借入金等特別控除後の金額、源泉徴収簿の㉔)を算出する
[2] [1]から定額減税の金額を差し引き(年調減税額と表現されます。①の金額が上限)、102.1%を掛けて年調年税額を算出する(100円未満切り捨て)
[3]給与・賞与から実際に源泉徴収した金額と比較し、過不足額を計算する
図出典:国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P13-14
◆源泉徴収票の作成
年調減税額がある場合は、源泉徴収票の(摘要)欄に以下2点の情報を記載します。
・「源泉徴収時所得税控除済額 ×××円」 →所得税額から控除した定額減税額
・「控除外額 △△△円」 →控除しきれなかった定額減税額
図出典:国税庁『給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた』P13-14
※非控除対象配偶者分を年調減税額に含める場合など、他にも摘要欄に記載すべき項目がある場合があります。
※年末調整を行っていない源泉徴収票については記載しません。
◆もし控除しきれていない定額減税額がある場合は各市町村から給付予定
定額減税の合計額が年調所得税額を上回る場合にも、年調還付金に上乗せしたり、令和7年1月以降の給与から引き続き控除したりすることはありません。
不足額は令和7年度に各市町村から「調整給付金」等の名目で支給される予定になっています。給与支払報告書の記載方法をよく確認して提出しましょう。
※詳細は定額減税特設サイトをご確認ください。
3)マイナンバーの取り扱い
マイナンバー制度が導入されてから8年程が経ちました(平成28年1月1日導入)。当初は最重要の個人情報として取り扱いに細心の注意が払われていたと思いますが、年月の経過と緩和措置等により、本来の取り扱いが忘れられていないでしょうか。 年末調整関係の手続きでは特にマイナンバーの取り扱いが多くなります。今一度取り扱いを確認しましょう。
◆事業者の義務と取り扱い
事業者は社会保障及び税に関する手続書類の作成時等に、職員本人及び扶養親族等のマイナンバーを記載する必要があります。 マイナンバーの提供を受ける場合、以下のような取り扱いが必要です。
【取得時】マイナンバーカードそのものや、「通知カード+運転免許証」など、番号および身元の確認を行う必要があります。
【利用・提供】事業者は、社会保障及び税に関する手続書類に従業員等のマイナンバーを記載して行政機関等及び健康保険組合等に提出する場面でのみ、マイナンバーを利用・提供することができます。
【保管・廃棄】社会保障及び税に関する手続書類の作成事務を行う必要がある場合に限り、保管し続けることができ、必要がなくなった場合で、所管法令において定められている保存期間を経過した場合には、マイナンバーをできるだけ速やかに廃棄又は削除しなければなりません。管理のため、提供を受けた日、廃棄した日などの記録を残す必要があります。
【安全管理措置】マイナンバー・特定個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他適切な管理のために、必要かつ適切な安全管理措置を講じなければなりません。また、従業員に対する必要かつ適切な監督も行わなければなりません。具体的には取り扱い区域の設定、施錠できる棚等への保管、取扱担当者以外の取り扱いを禁止する、などの措置が必要です。
◆年末調整へのマイナンバーの記載について
入職時等に本人及び扶養親族についてのマイナンバーを別紙で預かっている場合、年末調整書類にマイナンバーを記載する必要がありません。マイナンバーが記載されている書類を少なくするために、省略できる場合は職員に周知しましょう。
※詳細は国税庁『社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の概要』をご確認ください。
※更新時の法令や情報等に基づいております。最新の情報についてはご自身でご確認ください。
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