栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第40話 県庁の人~

法人化への膨大な申請資料を作成しながら、(病院開設迄にこんな資料もあったなあ。そうそう、肥熊銀行への資料作成は大変だった。何度も何度もやり直しして、やっと決裁がおりたなあ。何の信用もない組織に十億というお金を貸すんだから仕方がないことだが。そして、いろいろな研究が進んでいるなあ、特に指の再接着を日本で初めて行い、指を切断して将来を悲しむ子どもとその家族を救ったこと。多くの神経を繋ぐ研究資料の深さにも感激、この理事長の為にも頑張って行こう)じわじわと気持ちが高まる浩であった。  そしてある日、担当官からの、「庁舎での打ち合わせでは時間が足りないので、浩君、割勘で今度食事しないか?」という一言に、「よっしゃ!チャンス到来」と内心気持ちが高揚していった。 担当官と会食の中で、「浩君、君のとこの医療機関頑張っているね。多くの人たちから感謝されているよ。この前手術を依頼した友人もえらく喜んでいたよ。他の病院では手術には中々踏み切れずにいたけどなあ。見事に成功、凄いなあ…」「ありがとうございます。そのように言って頂いて嬉しいです。」それから徐に担当官は、「ところで浩君、経営の安定が、二、三年というのも可笑しいような気がするね。他の県が如何であろうとも熊本は熊本で実態に適応した進んだやり方、県民が喜ぶ方へと進めるべきだ。私はね、風穴を開けようと思っているよ」「エエッ!」「そう思わないか、浩君」「ハイ!そうです、その通りです!そのような社会になればみんなも頑張る社会になると思います!」飛び上がるように嬉しい気持ちを抑えるのにいっぱいであった。 担当官の発言は、以前の考えとは百八十度真逆のものであった。浩は心の中で、「人の解釈って変わるんだなあ。社会の為になるように懸命に努力し行動すれば、道はいつしか拓れていくんだなあ。世の中、満更でもないんだなあ」と、染み染みと感慨に耽った。  医療審議会では相当な議論がなされた。今までにない初めての一年以内の認可、賛否が分かれた。最終段階に入った時、担当官の一言が議場の雰囲気を一変させた。「私は、これまで多くの医療に関する認可に携わって来ました。その中でも、今回の病院は紳士的であり、日頃から職員一同の懸命で慈愛に満ちた診療や対応には、患者さんから絶大な信頼の声が、私たち行政サイドにも入ってきます。このような医療機関がより業務に専念できることは、地域の人たちの幸せでもあります。この事を鑑み、私は是非とも今回の法人化申請に対して承認頂き認可へと進めて頂きたい」思いを込めた発言に、自然と大きな拍手が鳴り響き、見事に、全国でも初めて、一年以内の法人化の認可が満場一致で決定された。病院で待機していた理事長と浩に審議結果の一報が届いた瞬間は、二人にとって、この上ない喜びの瞬間であり、まさに天にも昇る気持ちであった。この夜は、理事長とふたり、食事そして親しい飲み屋でカラオケを歌い続け、互いに三十曲ずつ、気が付けば午前三時を回っていた。それほど嬉しいひとときであった。 それから、国税への対応、県事務所の対応を行い、全て開業当初から法人扱いの適用を受けたのであった。 ~桜花まさに咲き綻びんとし、万物正気漲る陽春~まさにこの季節の時であった。 

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