栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第35話 仁俠社長~

原井社長の影響力をまざまざと見た出来事であった。この間、理事長と動く中、男の家に立ち寄った。映画では見ていたものの現実にこのような情景があるんだなあ、とこれまたビックリした。頭を剃りあげ、目が釣り上がっている男たち、しかしその礼儀正しさは、社員教育には活用できるなあ、と。石庭は、京都の龍安寺のように綺麗に螺旋状に描かれていた。全く塵ひとつなく、はじめてみる別世界の家で、武士の時代にタイムスリップしたかのように躍動感が高まってきた。 紫檀色の原井社長の家とは違って、明るい木目の家であったが、やはり襖の隣には、控えの男たちがいつでも刀や槍を構えている雰囲気が漂っていた。でも、既に原井社長宅で慣れていたのか、今回の浩は、楽しくてしかたがなかった。この男の側用人、秘書役の池山という男を紹介され、びっくりした。この男は、慈善団体のクラブなどにも所属していた大手事務機器会社の社長で、話したことはなかったものの顔は互いに知っていた。以来、この池山社長との交流が多くなった。背後にダークな男がいるとわかりながらも、この社長の仕事の切れ味は良く、学ぶことが多かった。有名大学を卒業し、税理士試験を目指すも挫折したらしく、その分経済界で活躍しようと思ったとのことであった。 あるとき、思い切って、しかしさりげなく「どのようにして知り合われたんですか?」と聞いてみた。「うん、義理人情に篤い方でね。自分が大学時代に田舎の親が倒産したのだけど、親の親友だったのがこのおやじでね。それ以来、色々と心配してくれて、奨学金の名目で、時々お金をくれてね。アルバイトはしたものの大阪での大学生活には結構家賃などの生活費もかかっていたのでとっても助かったんだ。大学卒業して二年間受験を続けたが合格しなくて、うずうずしている時に声を掛けられ、お世話になったこともあり、就職したんだ。それまでの普段の姿ではわからなかったんだけどね、入社して、自宅に案内されたときには、びっくり仰天したよ。でもすぐに退職することもできず、時期をみてと思っていたら今日までになったんだよ。だけどね、ビジネス感覚は良く、社員思いはとても凄いさ。我が子以上のように溺愛してくれんだ。それとさ、家以外での会社での姿や取引で一度も不審に思ったこともなく、取引業者も皆良くてね。おそらく、きちんとしたビジネスで利益をあげて、自分の役員報酬の中から自宅の使用人や組関係の費用を捻出しているのではないかと。自分は今懸命に仕えて経済活動に日々邁進だよ。会社では、ボランテア活動もよく行っているし、世の中への寄付もよくされているし・・・本当に正しい任侠の世界を生きているのがおやじのような気がしてたまらないよ。政治家にしても経済人にしても、おやじのような腹と行動を持つ男が世の中にはいなくてね。昨今ますますおやじに畏敬の念を持つようになって。一度おやじに聞いたときにも感動したんだよ。それはね、どうしても警察では動けない部分を我々が行動しないと危ないからね。人の命が最も大切なんだよね。そのような情報が入ったらずっと見守ってケアしてあげないとね。」「そう言えば、財団法人命の敬う会や犯罪被害者の心を支援する会や日本歴史の会などを主宰して、その日々の活動には多くの人たちから信頼を得ている姿を垣間見ることがあってね・・・」 浩は、複雑な気持ちになりながらも、理想を語る人は多きものの、現実目の前の事に懸命に行動する姿を確りと見ていこうと、池山社長から学ぶことができた。行動の美学を感じるようになった。

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