栗谷利夫著「夢現」

『MUGEN(夢現)』第14話 5、6年生・思い出の先生2~

小学校も最後の六年生になった。浩は、入学当初真ん中ぐらいの背丈であったが、次第次第に抜かれて気づいてみれば、校庭での月一回の全体朝礼では前から小さい順に並ぶのだが、五十三人のクラスメイトの中で前から三番目となってしまった。「そういえば、みんなより遙かに貧しいから、ろくすっぽご飯も食べてないので、その差がついたんだなあ」 と浩は、ご飯のせいにした。でも家庭ではまさに兄弟姉妹、おむすびのようにひとつになって助けあっていて、姉兄からは、一緒の時にはいつも分け前を一番多くしてくれていて、とても嬉しかった。このような仲の良い家庭の姿を姉美保子と浩は、幼心にも感謝の気持ちが湧いていて、早く姉真喜子や兄慎一郎のように働き、両親を楽にさせてあげたいとの思いを、幾度となくそのことを語り合っていた。そして浩は、三つ上の姉美保子のような人と結婚したいと思い始めるほど、姉美保子が大好きであった。 浩は、精神的にも逞しくなる自分を感じ始めていた。昼休みには、運動場に丸い円を書いてクラスの男子は全員毎日相撲をした。物資の乏しい時代、何の道具も使わずできるスポーツが相撲であった。円の外にぐるりと並んでの勝ち抜き戦で、なんとなんと浩は、勝ち続けた。このこともあって、六年生の三学期には、成績は真ん中程度にも関わらず、学級委員長に選ばれた。普通は成績の順に一学期、二学期と選ばれ、三学期は、勝負の世界で言えば所謂番狂わせといった、浩の学級委員長の誕生であった。 ある日、親しい中村が、「わーん」と泣きながら「浩、久末から打たれた、浩」 と、やってきた。相手は、クラスで一番喧嘩の強い男だった。浩は、暫く考え込んだ後、「おい、今から行こう」   「どこに」「久末のところだ」     「また打たれる、怖い」 中村が尻込みするのを強引に引っ張って行った。「おい、久末君、これから我々は常に二人で一人、いつも一緒だ。今度、殴ったら、ただではすまないぞ」 そこにいる浩はまさに別人、仁王そのものであった。その迫力に、久末と中村の二人はビックリ、それからというものは、この日から三人は凄く仲良しになったのだ。 この三人の強い絆の様子から、学級の運営がスムーズに行き始めた。委員長になった頃は、小さくも有り、勉強もさほどでもなく、相撲が強いというだけの浩に対して、「指導力がない」と公然とある男が言った。成績の順番からすればその彼がなる予定でもあった。しかし、久末がついているという情報から、それからは一言もその言葉は出なくなった。本来、強く見えなく、強くない浩も、これからの生きる力をこの時期深く学ぶことができはじめていた。 ただ、男の担任の先生とは最後まであわなかった。女子の学級委員長の方ばかり見て、浩を無視している感じがした。確かに、見窄らしい格好、一学期早々の家庭訪問では、家の中は六畳一間に六人が生活、部屋の中に上げれるような状況でもなく、先生も呆れ果てていたんだろうと浩は振り返った。「お金持ちなりたい」そう思うようになるとともに、五年生の時のあたたかい女性の先生が懐かしくなっていた。

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